ものぐさ読書宣教会

好きな本とゲームを布教するためのブログ。

独断と偏見で選ぶ日本文学暫定ベスト10を紹介する

「好きな日本の小説を10冊挙げてみろ」と戯れで自分の脳髄に命令し考えると、毎回選ばれる10冊が変化していることに気付く。その日の気分やコンディションによっても変わるし、新たな名作を読むことによっても変わる。そんなあやふやで暫定的なリストだが、数年後に見返してみると面白いかもしれないので一言コメントを添えて書いてみる。

番号は面白さのランキングではなく、古い順から付けているだけなので念の為。

 

谷崎潤一郎春琴抄

美しく残忍な盲目の三味線師匠春琴と、その下僕である奉公人佐助の師弟愛の物語。

道徳よりも美に至上価値を置く耽美主義の、日本文学での最高到達地点。

春琴抄 (新潮文庫)

春琴抄 (新潮文庫)

 

 

安部公房砂の女

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、村人たちの陰謀により一軒家に閉じ込められる。

自由について寓話的に描いた作品で、シュールな文体やサスペンスフルな展開も魅力。

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 

 

松浦理英子ナチュラル・ウーマン』

日本の同性愛文学の金字塔。第一回三島由紀夫賞をこの作品が獲れなかったのはおかしい。

ナチュラル・ウーマン (河出文庫)

ナチュラル・ウーマン (河出文庫)

 

 

高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』

「小説は文字だけで構成されなければならない」という暗黙の了解を破り、小説内に絵による図解や少女漫画を持ち込んだ異色作。ポップ文学の最高傑作。

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

 

 
村上龍『コインロッカーベイビーズ』

一九七二年夏、2人の赤子がコインロッカーの中で産声を上げた。コインロッカーで見つかった2人の少年、キクとハシ。孤児院で成長した2人は、やがてこの社会こそが自分たちを閉じ込める巨大なコインロッカーなのだと気付く。

村上龍の小説はガツンと来る劇薬のようなものなので、読む際は細心の注意が必要。

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2009/07/15
  • メディア: 文庫
 


筒井康隆脱走と追跡のサンバ

初期筒井康隆の最高傑作。驚愕と爆笑の連続、ナンセンスとスラップスティックの極限。文体のスピード感が物凄く、ぶっ続けで読むと異常なほどトリップ感がある。絶対売れるから角川文庫早く再版しろ。

脱走と追跡のサンバ (角川文庫)

脱走と追跡のサンバ (角川文庫)

 


町田康『告白』

「相対的な価値観を持たない明治期の村社会で、いきなり近代的自我を持った人間が生まれたらどうなるか?」を描いた思考実験小説。

朝日新聞が選ぶ平成の本第3位。笑いとシリアスを兼ね備えた怪作。

告白 (中公文庫)

告白 (中公文庫)

  • 作者:町田 康
  • 発売日: 2008/02/01
  • メディア: 文庫
 

 
舞城王太郎世界は密室でできている。

舞城王太郎が描くジュブナイル小説がまともな訳がない。15歳の僕と、14歳にして名探偵の親友ルンババが繰り広げる大冒険。彼らを待ち受ける数々の密室殺人事件。

サリンジャーライ麦畑でつかまえて』をオマージュ元としているので、そちらを読んでからの方が楽しめるかも。

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

 

 
阿部和重シンセミア

近代小説は「主人公」という特権的な地位を無自覚に是認してきた。

現実に「主人公」はいないはずなのに。

シンセミア』は登場人物から「主人公」の地位を剥奪した、タイトルの意味通り〝種ナシ〟の小説だ。登場人物60人全員が悪人の、圧巻のピカレスクロマンでもある。

暫定的な21世紀日本文学最高傑作。

精神的続編である『ピストルズ』もおすすめ。 

シンセミア(上)

シンセミア(上)

  • 作者:阿部 和重
  • 発売日: 2003/10/17
  • メディア: 単行本
 

 
冲方丁マルドゥック・スクランブル

アニメ『蒼穹のファフナー』や『PSYCHO-PASS 2』の脚本で有名な冲方丁のSF作品。

賭博師シェルの奸計により少女娼婦バロットは爆炎に呑まれた。瀕死の彼女は法的に禁止された科学技術によって命を救われ、相棒にして万能兵器のネズミ・ウフコックと共にシェルの犯罪を追うことになる。とにかくエンタメ度が高い。能力バトル好きにオススメ。

劇場アニメ化もされていて、そちらもかなり良かった。

 

以上、10作品でした。

本当はここで挙げた全作品の書評を書きたいのだが、自分の拙い文章で作品の面白さが全然表現できないことが怖いので今は勘弁してほしい。

文学修業を積んでからいずれチャレンジしたいところだ。