最近知り合った洋画マニアの方に勧めて頂いたのだが、とんでもない傑作だった。
舞台は1952年のイギリス・ロンドン。
凄腕弁護士として知られるウィルフリッド卿の事務所を、洒脱な風体の男・レナードが弁護依頼に訪れる。
レナードにかけられた容疑は未亡人殺し。
殺されたフレンチ夫人はレナードに8万ポンド(現在の通貨価値で約3億円)相続する旨の遺書を書き遺していて、警察は遺産目的の犯行だと考えている。
フレンチ家の使用人もレナードの犯行を証言する絶望的状況で、レナードの無実のアリバイを立証できるのは彼の妻であるクリスチーネしかいない。
しかし、どういうわけか、そのクリスチーネまでもが検察側の証人に回ってしまう──。
なぜクリスチーネは夫に不利な証言をするのか?
未亡人殺しの真犯人は誰なのか?
それがこの映画を牽引する謎である。
また、実質的な主人公である老弁護士ウィルフリッド卿の茶目っ気も本作の魅力だ。
以下は、正体不明の人物から事件に関するタレコミが入った時の彼のセリフ。
「下らん。殺人裁判には付き物だ。
ボール夫人のネタがあるから駅まで来いとさ。
この年になってガセネタに踊らされるか。
…………行こう!」
このウィルフリッド卿が物語の幕が閉じるギリギリで真相に辿り着く。
正直言って、大昔に撮られた白黒映画なのもあって「面白いけどよくある法廷ミステリだな」くらいの感じでそれまで観ていたのだが、最後の十分間には思わず目を見張り、画面を凝視してしまった。
極上ミステリを味わった際特有の、脳味噌が沸騰する感覚が久々に蘇ってきた。
この真相は全く古びないで現代人の鑑賞に耐えうるし、『情婦』という作品を一種の“純愛”を描いた映画にまで昇華させている。
エンドクレジットに『この映画をご覧になっていない方々のためにも、結末は決してお話にならないように』と注意があるのにも納得である。
散々ハードルを上げてしまったが、この作品はそのハードルをいとも容易く乗り越えてしまう確信があるので、是非観て欲しい。