最近読んだ本ではないのだが、お気に入りの日本現代文学なので記事を書く。
自分は批評的な読み方を会得した読者ではないので、読んでる最中は「おもちれ、おもちれ」くらいのことしか考えていない。だが、こうして紹介記事を書くことで少しでもその面白さを言語化できるのではないかと期待してみる。
21世紀の日本文学界への相次ぐ異業種参入が生んだ最大の異能、それがパンクロッカーでありながら小説家をやっている町田康だ(次点は詩人の最果タヒ)。
そんな彼が書いた傑作時代小説、その名も『パンク侍、斬られて候』。
あらすじはこんな感じだ。
舞台は江戸時代。浪人・掛十之進は、仕官の職と報酬欲しさに、恐るべき災いを引き起こすとされる新興宗教団体「腹ふり党」の討伐を説く。黒和藩(くろあえはん)重臣・内藤帯刀はこれを利用して自分と対立する重臣の失脚を目論むが、教祖が捕縛された腹ふり党は既に解散しており、存在しないことを知る。内藤は偽の腹ふり党をねつ造する計画を企てるが、その結果、黒和藩に阿鼻叫喚の大惨事が訪れる。(wikipediaから引用)
これを見ても少しわかるだろうが、並大抵の時代小説ではない。
ていうか、完全に時代小説のパロディなのである。
それだけではない。
例えば劇中に登場する新興宗教団体「腹ふり党」はオウム真理教のパロディであり、その教義はこんな感じだ。
腹ふり党の党員達はこの世界は巨大な条虫の胎内にあると信じています。彼らにとってこの世界で起こることはすべて無意味です。彼らが願うのは条虫の胎外、真実・真正の世界への脱出であり、その脱出口はただひとつすなわち条虫の肛門です。 腹ふり党の説く真正世界への脱出のためにはいくつかの手順がありますが、基本的には「腹ふり」を行うことによって人々は真正世界へ脱出することができます。
この調子で町田康は色々なものをパロディ化していき、我々を爆笑の渦に叩き込んでしまう。
江戸時代に生きているはずの登場人物が「オリンピック」や「コーディネート」のような外来語、「マジかよ」「ぶっ殺す」のような若者語を平然と使うし、合戦場にはスピーカーが設置されジョン・レノンの「イマジン」が流れる。ガンジャが回ってきて一服する。
絶対に抱腹絶倒すると思うので、ぜひ読んでほしい。
あまり現代文学に詳しくない人はただの低俗ギャグ小説だと誤解するかもしれないが、町田康はれっきとした芥川賞受賞作家で、『パンク侍、斬られて候』はれっきとした現代文学だ。