ものぐさ読書宣教会

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芸人よりも100倍オモシロい、松本哉という男——松本哉『貧乏人大反乱』感想、そして実際会ってきた!

ちょっとだけ近況報告。

こないだあるイベントに行ってきたら、“マルクス葬送派”の一員で在野の哲学者として活動し、2007年に亡くなられた小坂修平氏の奥さんが参加されていた。おれが話しかけると、奥さんは「最近世の中でまたマルクスが流行っているらしいですね……」と仰り、どう返答しようか迷っていると、隣にいた知り合いの自称オカルト・アナキスト(口癖は“革命は電撃的に到来する”)がほぼ間髪入れずに(コンマ0.1秒以下か?)、

「僕が小坂さんの後を継いで、今度のマルクスもしっかり葬送します!」と高らかに宣言していた。何度も召喚されては葬られるマルクスには流石に同情を禁じえない。まるでRPGの邪神のようである。今あのシーンを思い返すと腹がよじれる。

その帰りに最近仲良くなった人たちと国立の居酒屋で飲んでいると、その内の一人の方に「明後日『素人の乱』の松本哉が経営する『なんとかBAR』で大掃除をやるんですけど、一緒に手伝いませんか?」と誘われた。

matsumoto-hajime.com

おれはヒマ人なのでもちろんOKしたが、『法政大学の貧乏くささを守る会』や『素人の乱』の主催者ということ以外は松本哉のことを何も知らなかったので、さっそく彼の著作を読むことにした。

今回取り上げる『貧乏人大反乱』は、語り下ろし形式によって書かれた松本哉の自伝である。

本書は、松本哉学生運動を志すまでの少年時代を描いた第一章、

『法政大学の貧乏くささを守る会』を立ち上げて数々のオモシロ主義的闘争を勝ち抜いていく第二章、

法政での『ペンキ闘争』での逮捕と、拘置所暮らしについて綴った第三章、

「大学」から「街」に出て『貧乏人大反乱集団』として格差社会に抵抗する第四章、

リサイクルショップを立ち上げて『素人の乱』として高円寺に根付いた活動を始める第五章、

とんでもなく面白いデモを次々と考えて実行に移していく飛躍の第六章、

松本哉が杉並区議会議員選挙に出馬する第七章、

最後に自分がやってきた活動を総括して、今後の意気込みを語る第八章、という構成になっている。

最初はこの記事を面白い!と思ったエピソードを羅列するやり方で書いていこうと思ったのが、途中で断念してしまった。なぜなら、まだ半分しか書けていないのに3000文字を超えてしまい、完全に本書の要約になってしまったのである。

何が言いたいのかというと、この本は毎ページ毎行が面白いのだ!

「作家になる! 今日から収入はないよ!」と突然会社を辞めてしまう父親はキャラが立ちまくっているし、『法政大学の貧乏くささを守る会』での「学食値上げ反対闘争」、「カレー闘争」、「こたつ闘争」、逮捕される原因となった「ペンキ闘争」、『貧乏人大反乱集団』での「クリスマス粉砕集会」、『素人の乱』での「俺の自転車返せデモ」、「家賃をタダにしろデモ」……。全ての活動が爆笑ものである。

しかし、この本の凄い所はオモシロさだけじゃなく、時折本気のメッセージが込められていることだ。

いま世の中は確かにひどい。でも、「その隙間を縫って、どうやって賢く生きていくのか」という、規則の厳しい高校に通う生徒みたいな考え方だけは絶対にしたくない。お目こぼしで生きて納得するような、優秀な奴隷ではありたくない。やはり、何かを突破したい。そのためには、何度も繰り返しになるけど、自分たちの空間は自分たちの手で作るしかない。

設定したレールから逸れないように“勝ち組”を目指して努力し続ける新自由主義的生き方から、「いろいろな価値観がゴチャゴチャになっていて、それぞれの好き勝手な生き方も普通に受け入れられる」共同体主義的生き方への転換。松本はそう主張する。

個人的には前者の生き方を楽しめるタフな奴がいるのは知っている。しかし、自分含めた大多数はそうではなくて、きっとどこかでポッキリ折れてしまう。だから松本の主張はめちゃくちゃ共感できる。資本主義社会での成功/失敗以外の、新しいオルタナティブな価値観が絶対的に必要なのだ。そして、従来の左翼・新左翼のように自分の想像するユートピア共産主義社会を国や世界全体に押し付けるのではなく、自分から率先して『素人の乱』というコミュニティを作って部分的な“革命”を実現していく、この点も現実的で優れていると思う。

それで実際に『素人の乱』の人たちに会いたいと思い、彼らが経営する『なんとかBAR』の大掃除に参加してきた。『なんとかBAR』の常連さんたちも手伝いに来ていたので、正直どの人が『素人の乱』で、どの人が『素人の乱』じゃないのかよく分からなかったけど、とりあえず楽しかった! 松本哉のユーモアセンスが凄いのもあって、ワイワイとみんなで掃除しているだけでなんとなく面白い。

↑「なんとかBARの上に謎の建造物が勝手に建てられた!」と松本哉は大騒ぎしていた。高円寺は九龍城か?わけがわからない笑

掃除が一段落したところで、松本哉に色々と話を伺うことができた。「最近は面白いデモをやるつもりはないんですか?」と聞くと、コロナ禍では路上で騒ぐこと自体が白眼視される風潮があるからなかなか難しいとのこと。

また『貧乏人大反乱』に書かれたエピソードの裏話を聞くこともできた。松本が逮捕された法政大学での『ペンキ闘争』の際、ホールで演説をしていた当時の早稲田総長(その時法政では産学協同路線という大学の“就職予備校”化を推し進める為のシンポジウムが開かれ、各私学の総長が招かれていた)のケツを蹴飛ばし、慌てて四つん這いで逃げ惑う早稲田総長の背中にスプレーで「犬」と落書きした話は傑作だった!

途中で松本哉に「お前もなんとかBARの店長やらない?」とお誘い頂いたが(なんとかBARは店長が一日ごとに交替するシステムで運営されている)、おれは来年の春から高円寺で開店する予定のバーを手伝うつもりなので断った。

しかし、なんとかBARの老若男女入り乱れるカオスな雰囲気はかなり魅力だったので、ちょくちょく顔を出していく所存である。